金曜日のレイトショーで映画『花束みたいな恋をした』を観た。
「坂元裕二が脚本を書いた20代男女のラブストーリー」と聞いただけで、どんなだろうとわくわく期待したが
きっと後々まで思い出すたび胸がキュッと痛むような
とても美しい映画だった。
映画で描かれたのは、2015年に大学生だった麦と絹が、一緒に暮らし別れるまでの5年間。
好きな映画や音楽、お笑いの趣味までが同じで、出会ってすぐに恋に落ちたふたり。
初めて出会った京王線・明大前駅の改札口。焼きそばパンを買った商店街のパン屋さん。広いベランダから多摩川が見える、一緒に暮らしたマンション。
他愛ない会話に相手への好きの気持ちが溢れる毎日。
ともに過ごす月日が愛しいから平凡な東京の街の景色も煌めいてみえることを、私も一緒に体感して胸が熱くなった。
ああ、恋っていいよね。ふたりの若さと純粋さが眩しくて少し痛々しかったけれど。
どこにでもいる、だからこそ観る人の心に刺さるカップルの姿を、ナチュラルに演じた菅田将暉と有村架純。
ふたりの役者がとにかく素晴らしかった。
でもいつまでも好きなことばかりしてはいられなくなるのが大人への道というものだ。
生きていくために、絹と暮らしていくために、男として必死に仕事に食らいつく麦は、2人を繋いでいた大好きな本や映画やマンガの続きに、いつの間にか興味を持てなくなる。
その余裕のなさが若さでもあるし、格差社会の象徴でもある気がして切なかった。(麦がやっと就職できた会社は、多分ブラック気味の中小企業。)
一方、絹は仕事はしつつも変わらずサブカル活動に勤しみ、以前と変わらず麦と分かち合いたいと思うが、それがだんだん叶わなくなる。
すれ違い、広がる心の距離。
学生時代に上手くいっていた最高のふたりが社会に出ることで価値観の違いに気づき、別れに至ることは、20代の恋愛にはよくあること。
悲しいね。
でも、誰も知らないふたりだけの尊い時間を過ごした記憶は一生の宝ものだ。
すっかり大人になったとき、ときどき開けて楽しむ秘密の宝箱みたいなもの。
映画館を出た帰り道。
大粒の雪の中を運転しながら、はるか遠くに置いてきたあの時の気持ちを思い出して、私は少し泣いた。