風に乗って空を泳ごう

世界にひとつの布小物を制作する嘘とミシン。日々感じたことや体験したことを気ままに綴ります。

ヤクザと家族 The Family

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日本のヤクザ映画というとまず高倉健の「網走番外地」や菅原文太の「仁義なき闘い」シリーズを思い浮かべる。
北野武監督の「アウトレイジ」シリーズも記憶に新しいヤクザ映画といえるが、東映のヤクザ映画と比べると、流れる血の量と残虐さが格段に違うので少し苦手だ。

ヤクザ映画は組同士の抗争、もしくはヤクザvs.警察のバトルアクション映画だと思って見ているし、濃ゆいキャラクターのぶつかり合いを楽しむ(若き健さんや文太さんら往年の東映スターたちのイケメンなこと!)エンタメ映画と捉えて見てきた。

今回、舘ひろし綾野剛という組み合わせに加え『新聞記者』を撮った藤井道人監督の作品という点に惹かれて『ヤクザと家族 The Family』を観た。

 

従来のヤクザ映画とはだいぶ違う切り口で、新鮮だった。一言で言うと『暴力団対策法』施行前後のヤクザたちの栄枯盛衰の歴史を、ヤクザたちの目線で描いた「ヒューマンタッチなヤクザムービー」であった。

 

10代のチンピラから40代のヤクザ・山本を演じた綾野剛の存在感がとにかく凄かった。

私が好きだったドラマ『MIU404』の伊吹刑事で見せた陽気で優しいお調子ものの面影は一切なし。父を覚醒剤で亡くし愛情に恵まれず育った山本は、凶暴で不器用で、尖りまくったナイフのように冷たい目をしていた。

悲しいヤクザ・山本を見事に体現していた綾野剛

 

そしてそんな山本と親子の契りを交わし可愛がる柴崎組・組長を、舘ひろしが演じた。

物腰も語り口も柔らか、オシャレでダンディな柴崎組長。親愛の情を込めて思わず「オヤジ!」と呼んでしまいたくなる父性を舘ひろしに感じてしまった私。

 

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後半、物語はひたすら闇と不幸に向かって疾走してゆく。

14年の刑期を終えてシャバに出てきてからの山本の人生は、自業自得ではあるが、ちょっと気の毒すぎるくらい救いようがなく悲惨なものだった。

ヤクザ映画って、見終わったら気分が高揚して「よっしゃー!わしも一丁やったるわい!」ってなるのに。

かなり気分が落ち込んでしまう珍しいヤクザ映画であった。

 

それにしても。

反社会組織を容認するわけでは決して無いが、組から足を洗った後も彼らの多くは5年間はクレジットカードも携帯電話も自分名義では作れず、子どもや家族までもが非人間的な差別を受けているということを、この映画を見るまで気に留めたことはなかった。

『暴対法』によって反社勢力が消滅した場合、世の中はクリーンになるが、それによって元反社の人間が虐げられ、生きづらい世の中になるのは間違っていると思う。

邪魔者は排除すれば終わりではなく、罪を犯したことを反省し更生しようとする人間も健康的に生きられる世の中でなければ。難しいことだろうけど。

 

余談だが、後半、病気をして年老いた柴崎組長(舘ひろし)の佇まいが「渡哲也」に見えた瞬間があってちょっと驚いた。

血のつながりもないのに似てくるなんて、さすが「石原軍団ファミリー」である。

一世を風靡した石原軍団も今年解散してしまって、改めて昭和が遠くなったと感じている。

天国でボス(石原裕次郎)も私の父(裕次郎ファン)も驚いていることだろう。

 

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ところで、私的にベストof ヤクザムービー賞をあげたいのは、白石和彌監督の『孤狼の血』である。

どう見てもヤクザにしか見えない役所広司はマル暴対策のベテラン刑事。この人が規格外に狂っていてめっぽう面白いし、江口洋介滝藤賢一音尾琢真ピエール瀧など曲者揃いのヤクザたちの極悪っぷりがハンパなくて、笑えるほどだ。バイオレンス度も満点でかなり怖いが目が離せない。最後に大化けするエリート刑事・松坂桃李の怪演ぶりにも魅せられた。

ちなみにこの映画は「暴対法」施行直前の広島・呉を舞台にした物語だ。

 

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ということは今年の夏に公開になる『孤狼の血 2 』は、暴対法施行後のお話になるのかもしれない。

どんな物語になるのか今から楽しみだ。

やはりヤクザムービーはエンタメに徹してもらいたいと思う私。『孤狼の血2』も、ぶっちぎりに怖くて笑える映画であって欲しい。