風に乗って空を泳ごう

世界にひとつの布小物を制作する嘘とミシン。日々感じたことや体験したことを気ままに綴ります。

あの頃。

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映画「あの頃。」。

なんせキャッチコピーが《“ハロプロ”に魅せられた仲間たちの笑いと涙の日々を描いた青春エンターテイメント。》だ。

正直あまりそそられなかった。松坂桃李や仲野太賀が出ていなければ観ることはなかっただろう。

そんなわけで、映画はそれほど期待しなかったが舞台挨拶は見たかったので、ライブビューイングつきの回を予約した。

しかしなんだろう。予想に反して見終わった後の清涼感が凄かった。

雪解けのあとの道端に福寿草の花を見つけた時のような、小さな春がやって来た喜びにも似た清々しい気持ちになった。

つまり、とってもいい映画だったのだ!

 

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物語は「あの頃。男子かしまし物語」という、松坂桃李演じる主人公・剱樹人さんが書いた自伝的エッセイがベースになっている。

大学院受験に失敗し、彼女も金もない、うだつの上がらぬバンド活動をしている剱が、ある日あややの「♡桃色片想い♡」のMVを見たことからハロプロファンになり、おたく仲間と出会う。

前半の、くだらなくも楽しいバカ騒ぎの日々は男子にしかわからない世界ではあるが、笑えた。私は男の子の母である。そのノリは嫌いじゃない。

アイドルでもバンドでも、俳優でもなんでもいい。いくつなっても推しがいる人生って素晴らしいし、こんなふうに同じ人を好きになった仲間がいるってもっといいことだなと感じさせられた。

 

物語後半に予想もしなかった悲しいことが起こる。

その展開があったおかげでこの映画がただの「男子かしまし青春物語」にならずに済んだのだと思う。

ネタバレになるので詳しくは書かないが、メンバーの中で一番キャラが濃い「コズミン」の身に降りかかったある出来事を巡って、仲間がより絆を深めることになる。

「すばらしき世界」でも感じたが、コズミン役の仲野太賀の存在感がすごかった。コズミンの生き様はとにかく凄まじく、主役を食う勢いがあった。

ケチでプライドが高いコズミン。クセが強くてそうとう面倒くさい嫌な奴だったのに、あの屈託のない笑顔が忘れられそうにない。

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話は変わるが、舞台挨拶前に館内では大音量で松浦亜弥の「♡桃色片想い♡」が流れていた。

弾けるあややの歌声に自然とテンションが上がり、小さく鼻歌を歌う自分がいた。一世を風靡したアイドルの歌にはその場の空気をキラキラに変えるパワーがある。

1990年代も終わりを迎えようしていたあの頃の芸能界は、モーニング娘。松浦亜弥ハロープロジェクトがアイドルムーブメントを牽引していた。

自分のことを思い返せば、ススキノの薄暗いカラオケボックスで仲間と裸足でモー娘。の「ラブレボリューション21」を歌い踊って馬鹿騒ぎしたこともあった。あのとき付き合っていた仕事仲間や友だちの顔が甦ってきた。

映画の力ってすごいな。映画が始まると私も一瞬で「あの頃」の空気に戻れたのだから。

 

映画では彼らが狭いライブハウスでモー娘。の楽曲を歌い演奏するシーンや、小汚いアパートで酒を飲んで騒ぐシーンが何度も出てきた。

今見るとこんなことしていたのが信じられないくらいの、密密な空間と行為だ。

ああ、懐かしいなぁ。仲間とこうして唾を飛ばしながら騒いだり、飲んだり、何も考えずに遊んだりしたいなぁとしみじみ思った。

コロナが明けたらそんなことが再開できるのだろうか。

長い自粛により現在、心が凪状態。どう騒いで良いか忘れている気がする。

それに最初は何か気恥ずかしくて、お互いにモジモジしちゃいそうだ。