風に乗って空を泳ごう

世界にひとつの布小物を制作する嘘とミシン。日々感じたことや体験したことを気ままに綴ります。

ドライブ・マイ・カー

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海外の映画祭でも注目を集めている濱口竜介監督の「ドライブ・マイ・カー」。

自分はどう感じるか知りたくなって特別上映会をやっていたシネコンのレイトショーで「ドライブ・マイ・カー」を観た。

妻を亡くした男(西島秀俊)の話ということしか知らず、実は村上春樹のいくつかの短編小説がベースになっていたこともあとから知った。

それだけでなくチェーホフの「ワーニャ伯父さん」とベケットの「ゴドーを待ちながら」の2つの戯曲も物語を構成する重要なアイテムで

性格も国籍も違う食材たちがまぁ、よくここまでうまく複雑に絡み合ってオリジナルのお料理になったね!という感じ。

脚本も書いた濱口監督、天才かと思う。

 

物語の核は「喪失と再生」をテーマにしたシンプルなものだが、分かりやすい映画ではないし、3時間と長尺だ。

小さなエピソードがさざなみの様にじわじわとしつこくしつこく重なっていく。寝不足だと一発で眠りの世界に落ちてしまうだろう。

しかしこの晩は体調万全で、もともと台詞のやたら多い会話劇が好きな私にはそれが全く心地悪くないのだった。その波に身を任せていると、辿り着いた先に素晴らしいご褒美が待っていた。

親しい人の死にまつわる経験や、あのときこうすればよかったという後悔や、深い心の傷を負ったことがある、充分大人になった自分だからこそラスト20分の素晴らしさに鳥肌がたった。

 

たったひとりで「長い小説と向き合っているような」静かで豊かな時間を、映画館で過ごせて幸せだった。

 

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映画がすごく良かった時にしか買わないパンフレット。

と、歴代のマイカーの中で一番好きだった車のキー。

 

真っ赤なサーブのハンドルを握るみさき役の三浦透子。面白い女優にまた出会ってしまった。

今、ドラマ「真犯人フラグ」で気の毒すぎるお父さんを演じていてCMでも彼を見かけるたび切なくなっていたのだが、この映画でそのイメージが払拭された。

西島秀俊。素晴らしい俳優。