風に乗って空を泳ごう

世界にひとつの布小物を制作する嘘とミシン。日々感じたことや体験したことを気ままに綴ります。

流浪の月

 

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流浪の月・凪良ゆう

《親の無償の愛で保護されるべき子供時代に、それぞれの家庭で深く傷ついてきた大学生の文(ふみ)と小学生の更紗は、雨が降る公園のベンチで運命的な出会いをする。世話になっている叔母の家にはある事情があって帰りたくない更紗。そんな更紗に傘を差し出し「うち、くる?」と呟く文。一般的にはそれが「ロリコン」とか「誘拐」と言われてしまうような歳の離れた2人はともに暮らし始める。文のアパートは自分たちらしくいられる居心地の良い場所となるが、そう長くは続かず引き裂かれる。

更紗が大人になってからの再会。更紗が付き合っている彼とも紆余曲折あってその過程がまた辛いのだが、物語は互いの最大の理解者であるふたりが共に生きてゆこうとするラストに到達する。ふたりがいつまでも幸せでありますように。心から応援したい気持ちになった。

この本が映画化される!文役に松坂桃李。これ以上ないキャストに思うが、いつも明るい広瀬すずがこの複雑な育ちをした少女更紗をどう演じるのか映画公開が楽しみ。》

 

この文章は原作の小説を読み終えて、すぐに感想ノートに走り書きしたものだ。


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そして数ヶ月後。楽しみにしていた映画が公開された。

桃李作品なのでいつもながら公開初日の舞台挨拶中継付きで観た。

小説からは文と更紗の関係は男女の性愛とは違う、魂レベルでの深い結びつきを感じたのだが、映画にもそれがしっかりと描かれていて「ああ、ちゃんと文と更紗がいて良かった」と思った。

監督は「怒り」「悪人」などの李相日さん。

美しく悲しいこの物語を丁寧に繊細に描いていて、小説を読み終えたときと同じような切ない余韻が残った。

撮影を担当したのは「パラサイト」の撮影監督だったホン・ギョンピョさん。文と更紗の心象風景を表す自然の風景はもちろん、風や優しい光が感じられる映像がとても美しくて、うっとりした。とくに湖のシーンは忘れられないものになりそう。

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役者は、更紗の少女時代を演じた白鳥玉季ちゃんと、更紗に酷い暴力を振るうことでしか愛情を示せないDV彼氏を演じた横浜流星が素晴らしかった。

広瀬すずが演じた更紗はピチピチと健康的で可愛すぎたなー。もっと崩れて荒んだ更紗が見たかった気も。

そして何といっても凄かったのは原作の文そのものだった松坂桃李。終始目の演技、感情がマグマのように激るラストで見せる演技に圧倒されて、瞬きもできなかった。

とてもハードな内容なので2時間半ずっと心を持って行かれてなかなかしんどい作品なのだけど、もう一度映画館でじっくり見返したいと思っている。 

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さいごに。

文が営むカフェの雰囲気が好きだった。調度品はすべてアンティークショップで揃えたと思しき古いもので揃えていて、奥にある窓からは川が見えて。

珈琲のお湯がしゅんしゅん沸く音と客がページをめくる音しか聞こえないような、静かなお店。

そのカフェの名は《Calico》=更紗。