風に乗って空を泳ごう

世界にひとつの布小物を制作する嘘とミシン。日々感じたことや体験したことを気ままに綴ります。

枯れ葉

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フィンランドアキ・カウリスマキ監督。

世界中の戦争や紛争に嫌気がさし、引退宣言を撤回してまた映画を撮ることにしたという。

「枯れ葉」は貧しく孤独な中年男女、ホラッパとアンサが出会い、じれったいほどゆっくりと愛を育んでいく温かなお話だった。

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アキ・カウリスマキ映画といえば、この人たちみたいにいつも不機嫌そうでなかなか笑わない人たちが出てくる。大仰な演技もなく動きも展開もスローな内容が多いので、もしも睡眠不足の時に観ようものならうっかり眠りの世界に落ちてしまう。で、ハッと起きたら「え、まだ場面変わってなかった!」って。

今回は睡眠十分で向かったので大丈夫だった。というより、しみじみヘルシンキの庶民の暮らしぶりや、質素ながらも色合いが素敵なインテリアや、乏しい表情の中に探す繊細な感情の動きなど、細部までカウリスマキ節を堪能した。だから寝る暇はなかった。

人間同士が愛を育んでいく様子など本来はとても地味な行為で、この広い世界の中ではほんのちっぽけな二人なのだろうと「枯れ葉」に登場する暗い二人を見ていて思った。でも観終わった時になぜこんなに胸が温かくなって、ちょっと涙が出てきてしまったのだろうな。

それはきっと、戦争の対極にあるこの小さくて平凡な愛の物語を描きたかったカウリスマキ監督の気持ちが伝わってきたからなんだと思う。
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劇中に流れるたくさんの音楽もユニークだった。チャイコフスキーシューベルトなどのクラシックからフィンランド歌謡、マンボ、竹田の子守唄とバラエティに富んでいて。とくに、映画の中でのライブシーンで本人たちが登場するのだが、Maustetytöt(マウステテュヨット)というバンドの「悲しみに生まれ、失望を身にまとう」という曲がすごく良かった。

暗いB級昭和歌謡のような旋律。途中で妙な変調をするし、詩は物語とリンクした演歌調。全体的にヘンテコなのですっかり気に入ってしまった。 Maustetytötは英語にするとspice girls だそうで、そこもふざけてて好き。


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なかなか結ばれない2人だったが、最後にアンサは意を決してダメ男ホラッパに会いに行く。

いつもボンヤリした色のブラウスやゆるいワンピースなどを着ていたアンサが、ラストシーンではできる女風の清潔な紺のカシュクールワンピースで佇んでいた。この装いに新しい風が吹いたのを感じたし女の覚悟が見てとられてカッコよかった。ハッピーエンドに拍手!

 

とある雪のまちのアート

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大通公園雪まつり会場の端っこで札幌国際芸術祭の野外作品が展示されていると知ったので、買い物帰りの夕方に見に行ってみたら。
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想像以上に夢の空間になっていて心が躍った!

オーストラリアのENESSというアーティストの「Airship orchestra」という作品。

そばを通ったりオブジェに手を触れると音が鳴る。デジタルの目玉をキョロキョロとさせて、未来の生き物のようでかわいい。しばらく眺めていたら、この会場のテーマは「とある未来の雪のまち」だと分かってなるほどと思った。

まだまた数は少ないけど、札幌でも真冬にこうしてアートが生活のすぐそばにあるようになってきて、なんだかいいな。

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また別の日。レースやビーズなど欠品していた材料を買いに街の手芸店に行った帰りに、北欧雑貨のPiccolinaさんで開催中の「やまぐちめぐみ作品展」を見に行った。

やまぐちめぐみさんの描く絵を好きになったのは5年前。どこかのお店で手にした一枚のポストカードに描かれた女の子の絵をきっかけに、札幌のギャラリーcontex-tで開かれた展覧会に足を運んだ時からだ。
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難病を患い2015年、49歳で亡くなるまでたくさんの絵を描いていた山口さん。その絵は死が近づくにつれどんどんカラフルに、モチーフも小さな女の子やうさぎや猫などのかわいらしい動物たちが増えていっていた。まるで少しずつ子どもに還っていくように。

私は初期の頃の少し寂しげな感じのする作品がとくに好きなのだけど、山口さんの絵の中で変わらないのは深い海のような青色の美しさだ。

実物の青色は吸い込まれそうになるほど美しい。

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3月からは京都の恵文社でも展覧会が開かれるそうだ。Piccolinaの店主から「うちとはまた別の内容の絵が展示されるんですよー」と聞いて、ほわっと暖かい春の京都の街を歩いている自分の姿を想像してみた。

果たして少し先の未来の自分は、京都に行っているかな?

 

ゴールデンカムイ

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漫画「ゴールデンカムイ」の実写版。

「山﨑賢人が不死身の杉元を演るってどうなんだろう。線が細すぎるし美しすぎないかな?」と思っていたけど、筋肉をつけて増量した身体は逞しくてかっこよく、身体能力の高さに目を見張った。

映画として見せ方が起伏に富んでいて、飽きさせず最後まであっという間だった。冒頭の日露戦争203高地戦)や心配していたクマvs.杉元の闘いなどのシーンはかなり迫力があって嘘っぽさがなかったし。

良かったのはアクションシーンだけでなく、アシリパの住むアイヌコタンの暮らしぶりの描写も、アイヌ民族への敬いを感じさせる丁寧なものだった。

次々に登場する名キャラクターを演じるキャストの誰もが原作そのもので、日本の役者はほんとにすごいなぁとワクワクした。

アクの強い鶴見中尉(玉木宏)も最高だったけど、ベストアクト賞は白石を演じた矢本悠馬くんに差し上げたい。

忍者のようにすばしっこく狡猾な白石を演るためにかなり身体を絞って筋肉をつけ、アホで調子のいい白石をコミカルに表現していてちょっと驚いた。

続編もあるようだし、「キングダム」同様、見続けていこうかな。

 

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2024年さっぽろ雪まつりの大雪像に「ウポポイ×ゴールデンカムイ」が登場したので、デパートに化粧品を買いに行ったついでに寄って見てきた。

アシリパちゃんが山田杏奈寄りのキラキラしたお顔だった。

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私が好きなのは杉元の横顔。原作漫画の杉元の横顔は鼻が高くてイケメンなのだが、雪像はそこをちゃんと表現していると思った。

雪像の周りに食べ物の売店がたくさんあって、焦がした醤油の香りがしていてお腹が空いた。

シャケが入ったオハウ(あたたかい汁物)のブースがあったら飲みたかったな。

さよなら冷蔵庫

結婚した年からずっとわが家の大事な食料を冷やし続けてきたSHARPの冷蔵庫。

お正月明けに突然冷やす力が弱まり、アイスクリームを筆頭に冷凍食品が溶け出してきた。

無理もないな、勤続24年目だもの。とうとうお役御免の時を迎えそうということで、夫とヨドバシカメラに行って新しい冷蔵庫を予約した。頼んだ冷蔵庫のメーカーの品物はどれも納期が遅く、届くまで2週間以上かかるということだった。

さて食料の保存、どうしよ。そうだ、今はマイナスの雪の世界だ。庭の雪山にクーラーボックスを入れて天然冷蔵庫として使うことにした。

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そんなわけで、かなり面倒くさいが食事のたびにお肉や冷凍の食材をそこから取り出して調理するという、ちょっとしたサバイバル生活がスタート。

それもなんだか少し楽しいかもと思えてきた頃、突然古い冷蔵庫がまたギュイーンと音をさせながら動き出した。「まだボク、使えるよ!」と言わんばかりに。ぐんぐん庫内の温度を下げていく冷蔵庫。老体に鞭打って。切ない。家電にも心があるように思えてならなかった。

でも臨終が近いことには変わらなかった。

庫内がマックスまで冷えると、こんどはまたどんどんぬるくなっていったから。

そんなことを繰り返しているうちに新しい冷蔵庫が届く日が近づいてきた。

いよいよ今日でさよならという日の朝。

できる範囲ではあったがきれいに磨きあげ、最後は私の手でコンセントを抜いてあげた。

ウンウン音を鳴らしながら頑張って働いていたコンプレッサーの音が消えた。心臓が止まったかのようだった。

なんだか安楽死させたみたいだなと思って「ありがとうね」と言いながらボディをさすってあげた。

新しい冷蔵庫を届けにきてくれた配送のおじさんにこの事を話すと

「24年はすごいわ。聞いた事ないよ。よく働いたね。任せて!最後までちゃんと運んでやるからね。」と言ってくれた。

運びこまれた新しい冷蔵庫はどこもかしこも真っ白で、ドアがフレンチタイプと呼ばれる観音開きのかっこいい子。もちろんすごく嬉しかった。

けれど雪の中トラックに積み込まれていくボロボロのシルバーの冷蔵庫の方が、なんだかずっと愛おしくて悲しかった。

家電ひとつにこんなに感情移入してしまうとは。バカみたいな話だけど。

カラオケ行こ!

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「カラオケ行こ!」が笑って泣けてすごくいい映画だった。

2月は私にとって神様みたいな海外監督の作品の公開が目白押しだから、忙しくてもう行けないけど、可能ならもう一度観たいくらい好きな作品だった。

 

この映画、合唱部部長の中学3年生の聡実くんと、カラオケ大会のために歌が上手くなりたいヤクザの狂児との交流を描くという、ありえないファンタジー設定なのだけど、嘘っぽく見えなかったのがすごい。

あれは大阪のどこか小さな町で本当にあった出来事だったのではないかと。

青春映画を撮らせたら絶対の山下敦弘さんが監督なのと、シンプルながら研ぎ澄まされた美しい台詞が並ぶ野木亜紀子さんの脚本だからなのだろう。

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校門前に綾野剛が迎えに来てたら、カッコ良すぎてビビる。ヤクザだし。

この映画を初めて知ったときに「え?またヤクザ役?」と思ったが、今回はちょっとナンパで優しくユーモアのあるヤクザ。関西弁なのも手伝って

親しみのあるお兄ちゃんぽいヤクザ役がなんともはまっていた。聡実くんとのBLとも思えるラブラブ関係も、とにかくかわいかった。

それにこの作品はカラオケや合唱部をモチーフにしているので、「歌うこと」の素晴らしさが映画からたくさん伝わってきた。

ヤクザだろうが中学生だろうが、思い切り歌っている姿は平和で、みんな素敵。


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万年最下位脱出を企むヤクザ・“ハイエナの兄貴”を演じた橋本じゅんさん。抜群の安定感で必ず笑わせてくれるから大好きだ。新しいドラマのキャストにこの人がいると知ったら嬉しくなる名俳優のひとり。
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原作の漫画にはない設定だったらしいが、聡実くんがときどき息抜きに来る映画研究会の映写室。

ここで「自転車泥棒」や「カサブランカ」などの往年の名作を中学生ふたりがビデオテープで鑑賞してるのが、とてもいいのよね。こういうゆとりが、今の子たちにあるだろうか。

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思春期、ましてや反抗期を迎える難しい年頃の男子。

母親ならその扱いに手を焼き、悩み、頭の中が心配や怒りに支配されて、円形脱毛症になる人だっているだろう。(それ過去の私)

それなのに聡実くんの両親はなんだかあっけらかんとしたゆるい雰囲気で子どもをちゃんと愛してるのが分かるし、合唱部の副顧問・ももちゃん先生(芳根京子)もいつも笑顔で大らか&天然なので、子どもたちにも慕われている。

そして学校の先生でもない立場のヤクザの狂児が、全く別の角度からものごとを教えてくれたり優しく諭してくれるのだから、聡実くんにとっては恵まれた環境だったのだと思う。大袈裟にいうと地域ぐるみで子どもを育ててるというか。そんなのいいなぁと思う。

狂児との出会いふれあいを経てから、最後にある衝撃的な出来事が起こる。そこから聡実くんの心が一気に解放されていく物語の〆が最高だった。

卒業式を迎えてひとまわり大きく成長した聡実くんの姿は凛々しくて、お母さんは胸がいっぱいになったよ。


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綾野剛が裏声で歌う「紅」は気持ち悪くて面白かったが、地声で歌う「ルビーの指環」や「歩いてかえろう」がめちゃくちゃセクシーだった。音源化されればいいのに。

22年ぶりの「アメリ」

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新年最初に観る映画はデジタルリマスター版でスクリーンに蘇った「アメリ」と決めていた。

初公開されたのは22年も前のこと。

渋谷のシネマライズに並んで、満席のシートで見たことを思い出す。

毒があってファンタジックな世界全開のジャン=ピエール・ジュネ監督の作品はもともと好きだった。「デリカテッセン」「ロストチルドレン」はとくに今でも好きな映画として挙げられる。

しかし、その二作の後に撮られた女の子が主役の「アメリ」については、ほぼ内容の方は全くと言っていいほど覚えていなかったので、今回新鮮な気持ちで向き合えた。

そうだ、アメリってちょっと風変わりでおせっかいな優しい女の子だったな。

他人のお世話ばかり焼いて自分のこととなると不器用なアメリ。彼女の恋が最後に成就するシーンでは「良かった!良かったね!」とつい母親目線で見てしまい、幸せな気持ちに包まれた。

あの頃「アメリ」は雑誌でたくさん特集されていたし、アパレルやカフェとのコラボもあってなんとなく「おしゃれ映画」として語られていたけれど、意外にもしっかりと中身がある映画だったんだな。

魔法のフィルターがかかったようなとろみのある映像や、ザ・オールドパリといった切ないヤン・ティルセンの音楽は、時を経ても普遍的な良さがあった。


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映画を観たあと、なんとなくまっすぐ家に帰るのはもったいなくて、隣のBARに寄って映画の余韻に浸ることにした。

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去年の「絵本とわたし展」で一緒に参加した童話作家のたちばなはるかさんが、今回パンフレットの中でパリマップのイラストを手掛けられている。ちょっと猫背なアメリや手描きの文字がかわいいの。

アメリのようにモンマルトルのサクレクール寺院の階段を駆け上がりたいなぁ。そしててっぺんからパリの街並みを眺めたい。

マップを眺めながらコーヒーを飲み豆をポリポリ口に運ぶ。

パリと映画のことだけを考える正月、夜の10時過ぎ。至福の時間だった。

 

PERFECT DAYS

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今年最後に観た映画がこれで良かった。

ヴィム・ヴェンダース監督の「PERFECT DAYS」。

この映画の主人公、平山さん(役所広司)の仕事は公共トイレの掃除をすること。

規則正しい生活をし、無駄のない動きと真摯な姿勢でトイレをぴかぴかに磨く平山さんを見ていると、なぜか懐かしの「元気が出るテレビ」に出演していたエンペラー吉田さんの名言「偉くなくとも正しく生きる」が浮かんできた。

まさにこの言葉を体現する平山さんの生き方。

休憩中はサンドウィッチを頬張りながら木々を見上げて満ち足りた表情をして過ごす。清々しい仕事っぷりに加え、リラックスしている時の姿はチャーミングで魅力的だった。

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《分かり合えるよい関係の姪っ子とのふれあいにも叔父のことを思い出して胸が熱くなった。》

 

植物、フィルムカメラ、木漏れ日。

カセットテープで聴く音楽。

仕事のあとの熱い銭湯と居酒屋で飲む一杯の酒。古本屋で一冊ずつ買っては寝る前にちびちび読む本。

好きな物や事に囲まれた平山さんの日常はささやかだけど上等だ。

そして他人に向ける視線が優しいのは

人生の光と影を知っていて、すべてを浄化してきたからなのだろう。

人間味溢れる平山さんを演じた役所広司さん。

どれだけ褒めちぎっても足りないくらい素敵な演技だった。

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《本好きの平山さん。口数は少ないが豊かな人間性と広がる宇宙を感じさせてくれる。好きなタイプだ…》

 

消えて欲しくない東京の下町の風景、人情。ヴェンダースが撮るそんな景色や詩的な台詞も切なくて美しかった。やっぱりヴェンダース好きだな。

 

ラストシーンで流れるLou Reed

「PERFECT DAY」他

カセットテープから流れてくるlo-fiな洋楽はどれも沁みるいい曲ばかり。

さっそく自分で曲を集めて勝手にサウンドトラック化しちゃった。

 

そして「わっあがた森魚さん!」「え?あの店主は柴田元幸さんだったの?」などところどころに個性豊かな

「あの人この人」がサプライズ的に登場するのにも驚かされたし

私にとって嬉しい贈りものだった。


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映画館のソファに沈み込むと本当にほっとする。

振り返ると今年もたくさん映画が観られて幸せだった。

 

来年一本目に観る映画は、もう決めてある!