偉大な師との出会いで思春期の子どもの進路が大きく変わる時がある。
映画の中とはいえ、そんな美しい瞬間に立ち会ったとき、魂が震えるのを止められなかった。
監督・脚本シアン・ヘダー「Coda あいのうた」。
歌が好きでその才能を開花させた17歳の少女ルビーと、彼女以外は全員耳が聞こえないファミリーとの物語。
一家は漁業で生計を立てており、耳が聞こえるルビーは幼い頃から父母と兄の通訳も担っていた。
田舎の漁村暮らしで、金銭的にも余裕がない。“歌の勉強をするために音大に進みたい”と言い出したルビーの夢を、生活が不自由になるのを分かっていて家族が快諾する訳もなく、そこに深い葛藤が生まれる。
結局、両親と兄はルビーの夢を応援し、送り出す覚悟を決めるのだが、そこに至るまでの流れがリアルで涙なしでは見られない。
物語の後半、ルビーが音大の入試会場で歌い、それを家族にもある方法で聴かせるシーンがあったのだけれど、そこは鳥肌が立ってマスクの中が洪水になるレベルだった。
とにかくルビー役のエミリア・ジョーンズの歌声が素晴らしい。
お涙ちょうだいモノのストーリーは脚本と演者に力がなければ絶対にダメだけれど、彼女の歌には説得力があった。
そして、ちょっとエロ親父だけどワイフのことが大好きで底抜けに明るいお父さんと、美人で優しく家族思いのお母さん。お調子者のところもあるけど、妹の背中を一番に押してくれた頼りになる兄貴。
そして、ルビーの才能を見出し、厳しい愛を持って根気よく面倒を見続け、見事合格させた高校の合唱クラブの顧問教師。おしゃれで情熱的なこの音楽教師のキャラクターもとても良かった。
ルビーがそんなみんなの愛情をいっぱい受けながら過ごしてきた日々を私も一緒に見てきたからこそ、ラストの大きな感動につながったのだと思う。
「うた」をテーマにしてるだけあって劇中の音楽がどれも最高。
合唱クラブの高校生たちの歌声はもちろん、オペラやクラシックの楽曲も含めてどれも名曲揃い。
サントラをダウンロードして何度も聞いている。