風に乗って空を泳ごう

世界にひとつの布小物を制作する嘘とミシン。日々感じたことや体験したことを気ままに綴ります。

枯れ葉

f:id:usotomishin:20240206173854j:image

フィンランドアキ・カウリスマキ監督。

世界中の戦争や紛争に嫌気がさし、引退宣言を撤回してまた映画を撮ることにしたという。

「枯れ葉」は貧しく孤独な中年男女、ホラッパとアンサが出会い、じれったいほどゆっくりと愛を育んでいく温かなお話だった。

f:id:usotomishin:20240220001256j:image

アキ・カウリスマキ映画といえば、この人たちみたいにいつも不機嫌そうでなかなか笑わない人たちが出てくる。大仰な演技もなく動きも展開もスローな内容が多いので、もしも睡眠不足の時に観ようものならうっかり眠りの世界に落ちてしまう。で、ハッと起きたら「え、まだ場面変わってなかった!」って。

今回は睡眠十分で向かったので大丈夫だった。というより、しみじみヘルシンキの庶民の暮らしぶりや、質素ながらも色合いが素敵なインテリアや、乏しい表情の中に探す繊細な感情の動きなど、細部までカウリスマキ節を堪能した。だから寝る暇はなかった。

人間同士が愛を育んでいく様子など本来はとても地味な行為で、この広い世界の中ではほんのちっぽけな二人なのだろうと「枯れ葉」に登場する暗い二人を見ていて思った。でも観終わった時になぜこんなに胸が温かくなって、ちょっと涙が出てきてしまったのだろうな。

それはきっと、戦争の対極にあるこの小さくて平凡な愛の物語を描きたかったカウリスマキ監督の気持ちが伝わってきたからなんだと思う。
f:id:usotomishin:20240220001245j:image

劇中に流れるたくさんの音楽もユニークだった。チャイコフスキーシューベルトなどのクラシックからフィンランド歌謡、マンボ、竹田の子守唄とバラエティに富んでいて。とくに、映画の中でのライブシーンで本人たちが登場するのだが、Maustetytöt(マウステテュヨット)というバンドの「悲しみに生まれ、失望を身にまとう」という曲がすごく良かった。

暗いB級昭和歌謡のような旋律。途中で妙な変調をするし、詩は物語とリンクした演歌調。全体的にヘンテコなのですっかり気に入ってしまった。 Maustetytötは英語にするとspice girls だそうで、そこもふざけてて好き。


f:id:usotomishin:20240220001251j:image

なかなか結ばれない2人だったが、最後にアンサは意を決してダメ男ホラッパに会いに行く。

いつもボンヤリした色のブラウスやゆるいワンピースなどを着ていたアンサが、ラストシーンではできる女風の清潔な紺のカシュクールワンピースで佇んでいた。この装いに新しい風が吹いたのを感じたし女の覚悟が見てとられてカッコよかった。ハッピーエンドに拍手!