風に乗って空を泳ごう

世界にひとつの布小物を制作する嘘とミシン。日々感じたことや体験したことを気ままに綴ります。

水木しげるの妖怪 百鬼夜行展

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芸術の森美術館で開催中の水木しげるの妖怪 百鬼夜行展 〜お化けたちはこうして生まれた〜」へ行ってきた。

水木しげるさんの妖怪絵は、アニメの「ゲゲゲの鬼太郎」のようにデフォルメされたものではなく、漫画の原画が見てみたかった。それが叶った今回の展覧会。加えて豊かな自然溢れるこの場所で妖怪たちに会えるなんて。

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館内は最近の美術展にしては珍しくこの「ぬりかべ」の立体作品以外はすべて撮影禁止。

水木ファンか妖怪好きしか集まらない展覧会なので皆さんお喋りもなくとても静かで快適だったし、シャッター音が響かない環境というのも作品に集中できた要因かもしれない。1時間かけて100点以上もの妖怪画を堪能した。

 

本展では妖怪画を描くことになった背景や具体的手法についても詳しく紹介していて、初めて知ることも多くゾクゾクした。日本の妖怪は古くは奈良時代から出現し、江戸時代には鳥山石燕歌川国芳葛飾北斎などが描いた妖怪画や幽霊画がブームを巻き起こしたそう。

今だって妖怪(のようなもの)のブームは続いている。人の心を捉えて離さない妖怪の魅力が現代にも形を変えて引き継がれているんだ!と気づいた時は嬉しかった。

たとえば「鬼滅の刃」「呪術廻戦」「チェンソーマン」など人気漫画に登場する鬼や呪霊や悪魔。皆いにしえの妖怪から派生した物のように感じる。

水木先生は奇々怪界な目に見えないものの存在を信じていた幼少期に、実際に妖怪に出遭っているそうだ。太平洋戦争時に激戦地ラバウルに行かされ、同じ部隊の仲間たちが全員亡くなったのにひとりだけ助かり、ジャングルで妖怪に遭遇する不思議な体験をしながら、左腕は無くしたものの生きて帰ってこられたという有名なエピソード。

これは妖怪の存在を後世に伝える使命があったからと思わざるを得ない。

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物販コーナーで、好きな妖怪のポストカードを3枚に絞って購入した。

これは戦死者や野垂れ死にした者など、埋葬されなかった死者たちの骸骨や怨念が集まって巨大な骸骨の姿になったとされる「餓者髑髏」がしゃどくろ。


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つむじ風を起こして人を切り付ける鎌鼬かまいたち。でも切られても痛くもないし傷もつかないらしい。実は優しい妖怪?そしてなんだかかっこいい。


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針を使う仕事をしている者として、やはり見逃せなかったのが「針女」はりおなご

長い髪の毛の先についた鉤で男を生け捕りにする妖怪。なんちゅう恐ろしい女…

 

怖いというよりコミカルな容姿の妖怪もいて面白かった。

「小豆洗い」は川の淵でニヤニヤ笑いながら、ザルに入れた小豆をジャラジャラと洗う妖怪。人間に危害を加える訳ではなさそうだし、好きにさせてあげたらーって感じ。

それから「垢舐め」。夜中に風呂場に侵入して長い舌で風呂桶や風呂釜を舐めまわす。きれいに掃除してくれるなんてありがたいわと思った。

 

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水木しげる著「ほんまにオレはアホやろか」(講談社文庫)

美術館で買った水木さんの自伝エッセイ。面白くて一気読みしてしまった。

子どもの頃から興味のない分野の勉強はからっきしだったけど、大好きな妖怪研究には生涯にわたって取り組んだ「妖怪おたく」。どこか飄々としたおおらかさがあるところも魅力的な人だった。

会場の最後のコーナーに展示されていた水木さんからのメッセージが心に残った。

「電気が普及してあちこち明るくなってしまった。

世の中が百鬼夜行の様相になったことに怯えて本物の妖怪たちが姿を消しつつある」って。

ほんとその通りですよ…!現代は奇妙な悪さをする得体の知れない人間がいっぱいいて、妖怪たちよりよっぽど怖いです。