シャルロット・ゲンズブールが、母であるジェーン・バーキンを撮影した初の長編監督作品
「ジェーンとシャルロット」を観てきた。
私は20代の頃、セルジュ・ゲンズブールをきっかけに60年代のフレンチポップスに夢中になった。そこからフレンチカルチャー、シネマ、そして彼の伝説の恋人ジェーン・バーキンやその娘たちとの関係性にまで興味は広がった。
今でも大好きな人たち。70才を超えたジェーンを娘シャルロットが撮影し、ジェーンの歌が流れ、こんな素敵なドキュメンタリーに仕上げるなんて。悲しいエピソードも聞かされたのに、終始満たされたような気持ちでスクリーンを観る幸せな時間だった。
京都の宿で、パリの街角で。ふたりをとりまく空気が透明で、ふたりの姿が美しかった。さりげなく清潔な普段着がかっこよく決まっていて。私の理想とする永遠のパリジェンヌたち。
この映画の中では、これまで語ることのなかった娘たちへの想いや、彼女だけの苦悩や後悔が明かされていた。とくに近年、長女・ケイト・バリーの自死以来、消えないジェーンの心の傷は相当なもので、そのことをシャルロットに語る姿はとても痛々しく、同じ母親として胸に迫るものがあった。また「老い」に対する怖さや不安を語っていたところにも、自分の母やまたいつか迎える自分の未来を重ねて見た。
自分の内面を赤裸々に語り、それを受け止める娘がいる。こんなふうになるには年月を要しただろうが、そんなジェーンとシャルロットの関係性が素敵だなと思った。
シャルロットの娘・アタルちゃんも登場した。このお嬢さんがもう、女優のようにぴかぴかで愛らしかった。どこの家でも3代目は家族みんなの光みたいな存在なのだなぁ。孫に接する優しいおばあちゃんのジェーンの微笑みに、心がほぐれた。
母娘でゲンズブールが住んでいた家を訪ねるシーンもあって、捜査潜入気分でドキドキした。洒落たオブジェの数々、アールデコのバーカウンター、ピアノ。まるでまだそこにいるかのようにインテリアもそのまま。吸いかけのジタンが灰皿に無造作に置かれていて。ゲンズブールの気配を感じる部屋で、母娘が思い出を語るシーンは映画のようだった。
この秋にここが「Maison Gainsbourg」としてオープンするそうだ。いつかまたパリに行った時にぜひ、訪ねてみたい。