風に乗って空を泳ごう

世界にひとつの布小物を制作する嘘とミシン。日々感じたことや体験したことを気ままに綴ります。

オオカミの家

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2018年、チリの監督レオン&コシーニャが作ったストップモーション・アニメ映画「オオカミの家」。

このポスターから放たれる、ただならぬオーラに「これ絶対好きなやつ」と直感して夜のシアターキノに出かけたら、狭いロビーは溢れんばかりの若者たちが。(男の子の比率高し)

ミニシアターが混雑してるこのニッチな雰囲気を久しぶりに味わった。

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「オオカミの家」は強烈なインパクトを残す映画だった。一体私はなにを見せられていたのだろう。夢だったのか?いや、悪夢だ。子どもの頃、高熱を出したときに見るような悪夢。それを芸術にまで高めたような、傑作だった。


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ストーリーがあるようなないような、不思議なお話なのだけど、これは1970年代チリのピノチェト政権下に実在したカルト教団のコミューン「コロニア・ディグニダ」での出来事をベースにしている。このコロニアでは、元ナチ党員で教団指導者のパウルシェーファーが軍事政権と共謀して、ドイツ人たちに暴虐の限りを尽くしたという。強制労働、身体的暴力、幼い少年たちへの性的虐待、薬物や電気ショックによる洗脳。
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教団の人々がシェーファーや当時の政府から受けた恥辱、服従、精神の崩壊、あらゆる強迫観念をアニメーションにして描いたのが「オオカミの家」なのだと知った時、戦慄が走ったし、映画館で見て恐ろしさが倍増した。それどころかあまりの閉塞感に苦しくなり「ここから出してくれ」という気になった。
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映像そのものが斬新なアート作品だった。泥人形のような大きな立体造形物が絵と混ざり合って絵の中にとりこまれ、変容していくところとか、奇妙な音楽や時折聞こえる囁き声とか、全部が混ざり合って美しいものだから、怖いのに目が離せないという衝撃的な映像体験をした。

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マインドコントロールされるってこういう感覚なのかもしれない。

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パンフレットの付録に、同時上映された「骨」という作品のポスターがついていた。このポスター、表裏ともにナイスデザイン。部屋に貼るには気味が悪いけど。
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「骨」は100年前に作られたアニメに補修を加えて現代に甦らせたという設定の短編映画で、こちらも冒頭で「これは人間の死体を使って作られた世界初のアニメーション映画だ」とキャプションが入るのだが、「古ぼけた作りが本当に100年前の物っぽくてすごいなぁ」なんて呑気に思ってすっかり騙された。死んだ人の魂を、骨を使って生き返らせる少女呪詛師のお話。

 

余談:

映画の後でカルト教団「コロニア・ディグニダ」のことを調べていたら、教祖シェーファーの顔写真が出てきた。ペドフィリア(少年性愛者)特有の顔つきなのか、いま日本の芸能界で話題になっているあの人に雰囲気が似ていて、ゾッとした。