風に乗って空を泳ごう

世界にひとつの布小物を制作する嘘とミシン。日々感じたことや体験したことを気ままに綴ります。

空白

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今年は邦画が当たり年だ〜。

吉田恵輔監督の「空白」が非常に良かった〜。

このポスターを見ると、てっきり古田新太が激昂して桃李くんが謝り続けるバイオレンスものだと思っていた。違った。

悲哀に満ちた重厚なヒューマンドラマだった。

 

万引き逃亡の果て、交通事故で死んだ女子中学生。女の子を追いかけたスーパーの店長やマスコミを巡って、漁師の父親(古田新太)が狂気の暴走車に。

娘が轢かれるシーンの容赦ない描写があまりにも壮絶だったのと、顔面そのものの怖さや汚い言葉遣いも相まって、父親役の古田新太の存在感がとにかく際立っていた。

ふだん娘が何を考え、学校でどんな存在だったのかを一切知ろうとしなかったくせに「娘は万引きをするような子ではない。いじめを苦にしたに違いない」と決めつけ、その疑念をエスカレートさせていくのだ。

モンスター化した父親は事故に関わった人々を執拗に追い詰めていく。

問題発覚を恐れいじめがあったかを調べようともしない中学校。どんなに罵倒されようと謝り続けるだけの店長にも心が感じられない。

そしてその異常な様子をワイドショーのリポーターたちが追いかけ、報道が加熱する。

面白おかしく騒ぎ立てるSNSへの書き込みと嫌がらせ。

映画だから誇張されているかもだけど、こういうことって明日は我が身だ。その怖さに震えた。

それと衝撃的な事故シーンには、ハンドルを握ることの責任の重大さを改めて突きつけられた感じだ。

この映像、教習所で見せたらいいよ…。

 

そして土下座の桃李くん。

普段のイケメンオーラは一切無し、覇気がなく何を考えているか分からず人をイラつかせる気の弱い店長役がさすが。追い込まれ、壊れていく様子がとてもリアルだった。

(ドラマ「あのときキスしていたら」に続き、なぜかエプロン姿のスーパー店員役が続く彼。)

 

そんな中、事故を起こした若い女性の母親(片岡礼子)のある言葉と、娘の担任だった女教師(趣里)のとある行動が、父親の意識を変える大きなきっかけとなり、物語に小さな光が刺し始めるのだ。

この悲しい物語にどうやって幕を下ろすのだろうと思っていたけど、そう来たの!!

その素晴らしいラストに私は深く深く感動した。

 

子どもって、どんなろくでなしの親でも最後の最後まで親を信じていて、振り向いて欲しいものなんだ。

「お父さん!娘はあなたを大好きでしたよ!それにもっと早く気づいて大事にしてあげていたら、こんな悲しい事故は起こらなかったよ。」と思いながら、泣いた。

 

この思いは、まんま自分に。

どんなに体は大きく成長しても、心を離さず、いつもそばにいて心の声を聞いてあげること。それは親が示せる最大の愛情だ。

そんなことを考えさせられる映画だった。

 

脇の役者もみんな素晴らしかった!

店長に歪んだ恋心を寄せる偽善ボランティアババアの寺島しのぶ。ある意味いちばん狂ってた。

どうしようもない古田新太を支える後輩役の藤原季節。彼が一番まともな人間だったかも。